Rockshox Monarch 4.2リアサスペンションユニットのメンテナンス
必要な工具
- ・リペアスタンド
- ・六角レンチ(5mm、6mm)
- ・トルクレンチ
- ・サスペンションポンプ
- ・バルブコアドライバー
- ・ピックアップツール
- ・サスペンションオイル(Red Rum)
- ・グリス(専用品)
- ・脱脂剤(イソプロピルアルコールが理想的)
- ・ウエス
- ・保護メガネ
- ・保護グローブ
サスペンションシステムは多くの部品から構成されており、それらのメンテナンスにおいては専門的な知識や専用工具などを必要とするため、プロメカニックによる専門的なメンテナンス技術が要求されます。
しかしながら、いくつかのメンテナンス項目においては、ユーザーレベルでも可能なものがあり、それらのメンテナンスを怠ったことにより、機能を著しく低下させたり、部品を損傷してしまう恐れがあります。
ここでは、ユーザーが行う事の出来る内容を前提として、Rockshox製Monarch リアサスペンションユニットのメンテナンスについて解説して行きます。
リアサスペンションユニットは、フルサスペンションと呼ばれるマウンテンバイクに装着されており、後輪軸を地形などに合わせて独立して稼働させる事が出来るシステムの部品の一つです。
地面の凹凸や衝撃に合わせて、リンクシステムが作動する事で、リアサスペンションユニットが伸縮する仕組みになっています。
後輪軸が動作すると、リンクシステムによってリアサスペンションユニットが作動しますが、それぞれの作動量には大きな違いがあります。
右図の場合、後輪軸の稼働量(ホイールトラベル)とリアサスペンションユニットの稼働量(ユニットストローク)は、3:1の比率で設定されています。つまりホイールトラベルが6mmとすると、ユニットストロークは2mmという計算になります。
リアサスペンションユニットには、必ずユニットストローク量が設定されており、この場合のユニットストロークは63mmに設定されています。
通常、サスペンションシステムは、サスペンションユニット総ストローク量の約10~25%を「サグ」として設定しなければなりませんが、これらのサグ量も含め、リンク比によってリアホイールのトラベル量が設定させることになります。
例えば、ユニットストローク63mmでリンク比2:1の場合のリアホイールトラベル量は約126mmということになります。
しかしながら、エアスプリングユニットの場合などは、全てのユニットストロークを使い切る事は事実上不可能ですので、実質的なリアホイールトラベル量は約120mmと考える事が出来ます。
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リアサスペンションユニットは、様々な仕様の物が存在します。
これらの仕様を踏まえ、各フレームメーカーはそれぞれに最適化されたホイールトラベル量を設定し、リンク比を設定します。
これらのリアサスペンションユニットは、2つの数値を規格化しています。一つはリアサスペンションユニットの「取り付け長」を表し、もう一つはリアサスペンションユニットの「ユニットストローク」を表しています。
例えば、165 × 38 (6.5" × 1.5")というリアサスペンションユニットは、取り付け長が165mm、ユニットストロークが38mmである事を表しています。
以下は、現在主流のリアサスペンションユニットサイズとなりますので参考にしてみてください。
- 140 × 25 (5.5" × 1")
- 152 × 32 (6" × 1.25")
- 165 × 38 (6.5" × 1.5")
- 190 × 51 (7.5" × 2")
- 200 × 51 (7.875" × 2")
- 200 × 57 (7.875" × 2.25")
- 216 × 63 (8.5" × 2.5")
- 222 × 70 (8.75" ×2.75")
※カッコ内はインチ表記
※取り付け長はC‐C
今回使用するRockshox製 Monarch 4.2 HV216×63 リアサスペンションユニットは、取り付け長216mm、ユニットストローク63mmの製品です。
リアサスペンションユニットの取り外し手順については、各フレームメーカーによって異なります。出来るだけ車重を含め、リアサスペンションユニットに対しての荷重を軽減するため、必ずフレームをリペアスタンドなどに固定してください。
各フレームメーカーの指示に従い、上下のリアサスペンションユニット固定ボルトを緩め、リアサスペンションユニットを取り外します。この時、リアサスペンションユニットが取り付けられていた方向やノブの位置などを記録しておくと良いでしょう。
固定ボルトを取り外したら、リアサスペンションユニットを引き抜いて取り外します。
リアサスペンションユニットのメンテナンスを行う際、必ずマウンティングハードウェア(リデューサー)を取り外さなければなりません。
大抵のリデューサーは2ピース、および3ピースタイプを使用しており、左右に圧入されているだけですので、手やプライヤーなどを使用して簡単に引き抜く事が出来ます。プライヤーなどを使用する場合は、リデューサーに傷をつけたり、変形させる事が無いよう注意してください。
また、リデューサーにはサイズが存在し、固定ボルトのサイズ(M6、M8)とリデューサーの取り付け幅(リアサスペンションユニットに取り付けた時の外寸)を間違えると、フレームに取り付ける事ができません。
取り外す前に、それらが取り付けられていた位置や方向などを記録しておくと良いでしょう。
いくつかのリデューサーは、特殊なブッシングを圧入して使用しています。これらの場合、メーカーによっては専用工具を用意している場合がありますので、適宜正しい方法で取り外しを行ってください。
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目次▼
RockShox® Monarch 4.2 の分解
右図は、Rockshox製Monarch 4.2の部品展開画像です。
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最も重要な事は、リアサスペンションユニット内部に泥や異物などを混入させない事です。メンテナンスを始める前に、必ず中性洗剤を希釈した水溶液でしっかりと水洗いを行い、適宜イソプロピルアルコールなどで油分を除去します。
作業前は、必ずしっかりと洗浄する事を忘れずに。
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次に、リアサスペンションユニットを分解する上で重要なポイントとして、全てのエアプレッシャーを開放するという事です。
Monarchを初めとするエアスプリングサスペンションユニットは、反発力を生むためのスプリングシステムとして「空気」を使用しています。そのため分解前には必ずそれらの空気を抜く必要があります。
通常、エアバルブは米式バルブが採用されているため、爪の先や先端の細い工具などを利用してバルブコアを押し、内部のエアを完全に排出します。この時、内部の潤滑剤が空気と共に噴き出す事がありますので、ウエスなどで覆いながら作業すると良いでしょう。
注意:エアサスペンションユニットに充填されている空気は大変高圧です。そのままの状態で分解を行うと大変危険ですので、作業前には必ず充填されている空気を抜いてください。
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バルブコアは、バルブコアドライバーなどを使用して取り外して傷や摩耗などが無いか確認し、少量のグリスを塗布してから再度取り付けます。またバルブコアは定期的に交換する事をお勧めします。
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ベンチバイスにリアサスペンションユニットを固定します。この時、ベンチバイスでリアサスペンションユニットに傷がつかないよう、AV-4などのアクスルバイスを併用すると良いでしょう。リアサスペンションユニットの上側(太い方)をベンチバイスに固定し、ちょうどリアサスペンションユニットが逆さまになるように設置します。
「エアカン」と呼ばれるボディ部を手でしっかりと保持し、半時計方向に回転させます。滑りやすい場合は、下図のようにゴム製のグローブを使用したり、コブラレンチなどを使用すると便利です。
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エアカンを引き上げ、ダンパーボディから取り外します。この時、ネガティブエア室に発生する負圧によって、エアカンが引き上げ難くなりますので、しっかりと引き上げてください。
注意:ダンパーボディーの分解は絶対に行わないでください。
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ネガティブスプリングバンパー(白色)を取り外します。
樹脂製のグライドリング(白色)とシールヘッドOリング(黒色)を取り外します。グライドリングは元々割れているものが使用されていますので、注意してください。
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次にエアカンの部品を取り外します。エアカンには3つの部品が取り付けられています。
最初に一番外側にあるダストシール(黒色)を取り外します。この時、エアカンを傷つけないため、出来るだけ指で取り外す事をお勧めします。
どうしても取り外す事が出来ない場合は、細いマイナスドライバーやピックアップツールを使用し、エアカンに傷をつけないよう注意して作業してください。
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ダストシールの下には、グライドシール(青色)、グライドリング(灰色)がそれぞれ取り付けられていますので、それらを取り外します。基本的にこれらの部品は、一度取り外したら再利用できないものとしてください。
ピックアップツールを使用する事は大変有効ですが、絶対にエアカンに傷をつけないように注意が必要です。
グライドリングには、元々割れているものが使用されています。
注意:エアカンは絶対に傷をつけないでください。わずかな傷でもエア漏れの原因となります。
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イソプロピルアルコールを使用し、ウエスでエアカンの内部を洗浄します。エアカンの内部は非常に繊細で、わずかな傷でもエア漏れの原因となります。万一、傷が発生している場合は、エアカンの交換が必要になります。
目視や指で触れる事で内部の傷を確認する事が出来ます。
同様にダンパーボディーの傷も確認します。
特に外部に突出しているダンパーボディーは傷がつきやすいので注意が必要です。例えば、この場合、エアカンの外に突出している部分の傷は、エア漏れの重大な要因にはなりませんので、バリや突起などを軽く紙やすりなどで落とす事で使用する事が出来ます。
これらの補修に関してはプロメカニックの指示に従ってください。
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RockShox® Monarch 4.2 の組み立て
組み立ての前に、以下の手順で全てのOリング、シール、グライドリングを新しいものに交換します。
割りの入ったグライドリング(灰色)を取り付けます。フランジがありますので、向きに注意して装着してください。
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グライドリングの上にグライドシール(青色)を取り付けます。グライドリングとグライドシールは一つの溝に合わせて装着できるようになっています。
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最後にダストシール(黒色)を装着します。
全ての装着作業は指で行うようにしてください。工具などを使用して装着すると、シールを傷つけ、エア漏れなどの原因になります。
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取り付けた各シール、グライドリングに少量のサスペンションフルード(Red Rum)を塗布します。同様にダンパーボディーピストンに取り付けたOリング、ネガティブスプリングバンパー、およびグライドリングにもサスペンションフルードを塗布します。
エアカン内部の全周に渡ってサスペンションフルードを塗布します。
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ダンパーボディーにエアカンを取り付けます。
ネガティブエア室に圧力が掛かりますので、しっかりとエアカンを押し込んでいきます。この時、ダンパーボディーはベンチバイスに固定しておくと作業しやすいでしょう。
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ダンパーボディーにエアカンをねじ込みます。エア圧によってエアカンが引き戻されようとしますので、エアカンをしっかり押し下げて時計方向に回転させてください。完全に締め付けを行う際は、コブラレンチやゴム製のグローブを使用してしっかりと締めつけてください。
注意:絶対にプライヤーなどのレンチを使用して作業しないでください。
サスペンションポンプを使用して、リアサスペンションユニットにエアを充填してください。
エア圧の設定は、各フレームメーカーの推奨値に従ってください。
取り外したリデューサーを取り付け、リアサスペンションユニットをフレームに取り付けます。
万一、取り付けたリデューサーにガタがある場合は、ユニット本体側のDUブッシングの消耗が考えられます。適宜DUブッシングの交換を行ってください。
注意:リデューサーにガタがある状態で使用すると、リアサスペンションユニットやフレーム破損の原因となります。
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