帯電した物質が(+)に帯電したのか、(−)に帯電したのかは接触している物質の組み合わせによって決まります。
その関係を表した表を帯電列と言います。
静電気とは
静電気の発生シーン
- ドアノブの電撃
- ホコリの引き寄せ
- 電子デバイスの破壊
- 静電気による引火・爆発
静電気と言えば、乾燥した部屋でドアノブを触ったときにパチッとくる電撃や、暗闇でセーターを脱ぐと青白い放電が見られる現象をイメージしますが、コンセントから流れてくる「電気」とはどう違うのでしょうか。静電気はコンセントを流れる電気(動電気)と違い、一カ所にとどまっている電気(電荷)のことを指します。水に例えると、コンセントを流れる電気のイメージは川で、静電気のイメージはダムと言えば分かりやすいでしょうか。
この溜まった電気(水)が、電気(水)を流す物体(導体)に触れた時に一気に流れ出すことを放電といいます。この現象を静電気放電(ESD=Electro-Static Discharge)と言います。
すべての物質を構成する原子は電気的にプラスの力を持った原子核(+)と、マイナスの力を持った電子(−)からできています。
安定した状態の原子は原子核(+)と電子(−)の力が釣り合っていますが、これに運動エネルギーや温度変化などを与えると原子は電子を放出し、電気的な力のバランスが偏った不安定な状態となります。電子(−)を失った物質は原子核(+)の力が大きくなり、一方で電子(−)を受け取った物質はマイナスの力が大きくなります。
このように物質が電気的な力のバランスを乱し、不安定になっている状態を静電気が発生している状態、つまり帯電しているといいます。物質が帯電する主な原因は大きく3つに分類されます。
静電気の発生原因
- 接触している2つの物体が離れるときに起きる帯電現象。液晶保護フィルムのシートをはがすと手にまとわりつく現象。
- 二つの物体がすり合わされることで起きる帯電現象。下敷きを擦って髪の毛を逆立たせるときの現象。
- 帯電した物体が近づくだけで起きる可能性のある帯電現象。静電誘導によって引き起こされる。
静電気の電圧
帯電した静電気はどれくらいの電圧があるのでしょうか。一般的に人体に感じるほどの電撃があれば、3,000V(3kV)以上はあると言われています。【表1】
【表1】人体帯電と放電時の電撃の強さの関係 (JNIOSH-TR-No.42(2007)より)
人体の 帯電電圧(V) |
電撃の強さ | 備 考 |
---|---|---|
1,000 | 全く感じない | |
2,000 | 指の外側に感じるが痛まない | かすかな放電音発生 |
3,000 | 針で刺された感じを受け、ちくりと痛む | |
4,000 | 針で深く刺された感じを受け、指がかすかに痛む | 放電の発光を見る |
5,000 | 手のひらから前腕まで痛む | 指先から放電発光が延びる |
10,000 | 手全体に痛みと電気が流れた感じを受ける | |
12,000 | 手全体を強打された感じを受ける |
湿度環境では少し体を動かすだけで数千~数万V(数kV~数十kV)の非常に高い電圧の静電気が発生してしまいます。【表2】
【表2】静電気発生の例
静電気発生源 | 帯電電圧(V) | |
---|---|---|
相対湿度 10~20% |
相対湿度 65~90% |
|
じゅうたん上を歩く人 | 35,000 | 1,500 |
ビニール床上を歩く人 | 12,000 | 250 |
作業台で作業する人 | 6,000 | 100 |
作業指示用のビニールケース | 7,000 | 600 |
作業台から取り上げたポリ袋 | 20,000 | 1,200 |
ポリウレタンフォームを詰めた作業イス | 18,000 | 1,500 |
たとえば冬場に車から降りるときに、服とシートのこすれにより静電気が発生し車(金属部)に触れたときに電撃を感じるというように静電気は日常的に発生しています。
様々な静電気対策
それぞれのシーンにはそれぞれ対策があります。
どのシーンでも使える対策もあれば、特定のシーンでのみ有効な対策もあります。
例えば、ドアノブに触れたときのスパークを防ぐには、人体の帯電を1,000V以下にすれば効果がありますが、微小な電子部品の破壊を防ぐには人体の帯電を100V以下にコントロールすることが求められます。また、防爆の静電気対策と電子部品の静電気対策はそれぞれ別の規格によって管理方法や数値が規定されています。目的にあった正しい静電気対策を行いましょう。
当サイトでは高密度化した電子デバイス※1が微弱な静電気放電により破壊されるのを防ぐ静電気対策について説明しています。
電子デバイスが破壊されてしまう電圧はどの程度かというと、1,000V(1kV)の電圧には耐えられないものも多く、中には100V(0.1kV)未満で破壊されてしまうものも増えています。【表3】
これらはすべて人体に痛みを感じないレベルの放電のため自覚のないままデバイスを破壊してしまうことになります。
人間は静電気を発生させやすく常に静電気の帯電をゼロにすることは非常に難しいため、特に注意が必要です。
※1 静電気の影響を受けて、損傷する可能性のある電子デバイスを静電気敏感性デバイス(ESDS=Electro Static Discharge Sensitive devices)と呼びます。
【表3】ESD敏感性の表示(HBM耐量)の一例
半導体の種類 | HBM※敏感性(V) |
---|---|
非常に敏感な特別部品(RCJS-5-1範囲外の追加予防措置が必要) | 10~100 |
パワーMOSFETS | 100~300 |
1990年以前に設計されたMOS VLSI | 400~1,000 |
最近のVLSI(2000年までの設計) | 1,000~3,000 |
HCおよび同様なファミリ | 1,500~5,000 |
CMOS B シリーズ | 2,000~5,000 |
CMOS A シリーズ | 1,000~2,500 |
リニアMOS | 800~4,000 |
小型の旧タイプのバイポーラ | 600~6,000 |
小型の最近のバイポーラ | 2,000~8,000 |
※HBM(Human Body Model/人体帯電モデル)
帯電した人が立った状態で、指で物体に触る際の静電気放電(ESD)をモデル化したもの。(人体の容量100pF、抵抗1500Ω)